てんかん診療支援コーディネーター認定制度について
わが国のてんかん医療は、これまで小児科・精神科・脳神経内科・脳神経外科などの診療科により担われてきた経緯があり、その結果、多くの地域で、どの医療機関がてんかんの専門的な診療をしているのか、患者ばかりでなく医療機関においても把握されていない状況が生まれている。一般の医師へのてんかん診療に関する情報提供や教育の体制は未だ整備されていないなど、てんかん患者が地域の専門医療に必ずしも結びついていない。このような現状を踏まえ、各都道府県において、てんかん対策を行う医療機関を選定し、てんかんの治療を専門的に行っている医療機関のうち、1か所をてんかん支援拠点病院として指定し、専門的な相談支援、他の医療機関、自治体等や患者の家族との連携・調整を図る「てんかん地域診療連携体制整備事業」が2015年からモデル事業として開始された。3年間のモデル事業を経て、2018年から本事業となり、2021年度から、てんかん診療全国拠点機関は、てんかん全国支援センターに、てんかん診療拠点機関は、てんかん支援拠点病院に名称変更となった。
各自治体により次に掲げる要件を全て満たす医療機関1か所がてんかん支援拠点病院として指定されている。①日本てんかん学会、日本神経学会、日本精神神経学会、日本小児神経学会、日本脳神経学会が定める専門医が1名以上配置されていること ② 脳波検査やMRI検査が整備されているほか、発作時ビデオ脳波モニタリングによる診断が行えること ③ てんかんの外科治療のほか、複数の診療科による集学的治療を行えることが指定条件である。
てんかん支援拠点病院の業務は、①てんかん患者及びその家族への専門的な相談支援及び治療 、②管内の医療機関等への助言・指導 、③関係機関(精神保健福祉センター、管内の医療機関、保健所、市町村、福祉事務所、公共職業安定所等)との連携・調整、 ④医療従事者、関係機関職員、てんかん患者及びその家族等に対する研修の実施 、⑤てんかん患者及びその家族、地域住民等への普及啓発活動である。てんかん拠点病院は、上記の業務を適切に行うため、てんかん診療支援コーディネーターを配置する。コーディネーターは、①精神障害者福祉に理解と熱意を有すること、②てんかん患者及びその家族に対し相談援助を適切に実施する能力を有すること、③医療・福祉に関する国家資格を有することが要件になる。
てんかん支援拠点病院から構成される全国てんかん対策連絡協議会において、てんかん診療支援コーディネーターの役割・定義を提言し、てんかん診療支援コーディネーター認定制度を2020年度から開始した。(2019年度第2回全国てんかん対策連絡協議会承認)
1. てんかん支援拠点病院診療支援コーディネーター
(役割)
てんかん診療拠点施設において、てんかん診療が円滑に行われるような医療側と患者側の間の調整を行う
(要件)
以下のすべての要件を満たすものである。
- 1)てんかん診療拠点施設に従事するもの
- 2)社会保険制度、社会福祉制度に関する基本的な知識をもつもの
- 3)てんかんに関する基礎知識をもつもの
- 4)患者側の不安や心理的ストレスに対する初歩的な心理相談能力をもつもの
- 5)医療・福祉に関する国家資格を保有するもの
(業務)
- ⅰ)てんかん患者及びその家族への専門的な相談支援及び助言
- ⅱ)管内の連携医療機関等への助言・指導
- ⅲ)関係機関(精神保健福祉センター、管内の医療機関、保健所、市町村、福祉事務所、公共職業安定所等)との連携・調整
- ⅳ)医療従事者、関係機関職員、てんかん患者及びその家族等に対する研修の実施
- ⅴ)てんかん患者及びその家族、地域住民等への普及啓発
2. てんかん診療支援コーディネーター認定制度
(目的)
てんかん地域診療の裾野を広げるため、てんかん患者・家族と医療機関、福祉、行政機関との橋渡しを行う。
(対象)
てんかん支援拠点病院ならびに連絡協議会に属する協力機関・施設(医療、福祉、行政)等において、てんかん診療に携わる何らかの医療系国家資格を有するもの
(認定のための基本)
基本ポイント(研修会:3時間以上のてんかんに関する講義を必要条件とする)
- ①てんかん地域診療連携体制整備事業が行う研修会(年2回開催)
- ②全国てんかんセンター協議会学(JEPICA)が行う総会2日間への参加(年1回開催)
- ③てんかん支援拠点病院が行う研修会
- ④てんかん学会、国際抗てんかん連盟関連の学会、地方会
3年間に上記の研修会、学会に6回以上の参加を基本とする。3年ごとに更新する。2020年度から暫定認定証を発行した。
てんかん診療支援コーディネーターの役割
3. てんかん支援拠点病院診療支援コーディネーター研修会の実施
2020年度は、てんかん地域診療連携体制整備事業(厚労省、自治体)におけるてんかん診療コーディネーター認定制度研修会を3回行った。
1)2020年度第1回てんかん診療支援コーディネーター研修会
日時:2020年8月8日(土)10:00~16:30 ZOOM WEB会議 (55名参加)
研修講義(各30分)
- 1. てんかんの新分類と発達障害:NCNP外来診療部 中川栄二
- 2. てんかんと精神症状:NCNP精神診療部 谷口 豪
- 3. てんかんの外科治療:NCNP脳神経外科診療部 岩崎真樹
- 4. 学校生活上の対応:NCNP小児神経診療部 齋藤貴志
- 5. 抗てんかん薬の副作用・内服管理の仕方:NCNP薬剤部 大竹将司
- 6. 使える社会資源・制度について:NCNP医療連携福祉部 澤 恭弘
- 7. てんかんと精神看護:NCNP看護部 佐伯幸治
2)2020年度第2回てんかん診療支援コーディネーター研修会
日時:2020年12月19日(土)ZOOM WEB会議 (93名参加)
- 1. 全国てんかん診療拠点事業の現況:NCNP外来診療部 中川栄二
- 2. 運転免許に関して:NCNP脳神経外科 岩崎真樹
- 3. 女性のライフスパンとてんかん診療、葉酸含む食育:NCNP脳神経内科 金澤恭子
- 4. 高齢者てんかんと認知機能障害について:NCNP精神科 谷口 豪
- 5. 認知行動療法とは:NCNP認知行動療法センター 蟹江絢子
- 6. てんかん学習プログラム:NCNP精神リハビリテーション 須賀裕輔
- 7. てんかん外科に必要な看護:NCNP看護部 三嶋健司
- 8. 精神疾患患者におけるCOVID-19対応と職員のメンタルヘルス:NCNP看護部 佐伯幸治
3)2021年2月13~14日全国てんかんセンター協議会総会(JEPICA)
(361名参加)
4. 包括的てんかん専門医療施設とてんかん診療支援コーディネーター
てんかん学会認定の「包括的てんかん専門医療施設」とは、てんかん患者とその家族がてんかんを克服し身体的、精神的、社会的に充実した幸福な生活をおくるための高度な専門医療施設として、2020年度から認定制度が開始された。包括的てんかん専門医療施設は単なるてんかんを専門とする医師の集団ではなく、てんかん医療に関わるすべての職種による学際的包括的連携によって、てんかん医療とケアを提供する最も高度なてんかん診療医療施設である。日本てんかん学会は、包括的てんかん専門医療施設基準を以下のように定めている。
①日本てんかん学会認定研修施設であること、②日本精神神経学会、日本神経学会、日本脳神経外科学会、および日本小児神経学会が認定する常勤の専門医が各1名以上おり、それぞれは日本てんかん学会が認定する専門医であること、 ③長時間ビデオ脳波同時記録の実績が年間 50 件以上であること、 ④MRI 装置を常備する施設であること、 ⑤てんかん医療を運営するための委員会が組織され、運営委員会はてんかん専門医を含むてんかん診療を担当する医師、看護師、臨床検査技師、社会福祉士ないし精神保健福祉士、てんかん診療支援コーディネ ーター、および連携医療事務によって構成されていること、⑥診療実績が下記の診療実績すべてを満たすこと、てんかん手術を常時実施している、けいれん重積状態に対する入院管理を常時実施している、てんかんに併存する精神医学的問題に対する専門的診断および診療を常時実施している、指定難病や小児慢性特定疾患に合併した薬剤治療抵抗性てんかんの診療を常時実施していること、などが施設認定条件である。
2022年4月1日現在、全国で17の施設が認定されている。この包括的てんかん専門医療施設においても、厚労省てんかん地域診療連携整備事業で定義されている、てんかん診療支援コーディネーターが重要な役割を担うことになる。
※2021年度 包括的てんかん専門医療施設(2022年4⽉現在)
東京医科⻭科⼤学病院、徳島⼤学病院、広島⼤学病院、⾃治医科⼤学病院、⻑崎医療センター、京都⼤学病院、国⽴精神・神経医療研究センター病院、札幌医科⼤学病院、⻄新潟中央病院、静岡てんかん・神経医療センター、⼤阪市⽴⼤学病院、都⽴神経病院、東北⼤学病院、北海道⼤学病院、⿅児島⼤学病院、九州大学病院、東京大学病院 以上17施設