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日本ではなぜ「てんかん患者数」が少なく評価されているのか?
てんかんを持つ人の数は、先進国ではおよそ1000人あたり5人といわれており、高齢者では更に増加することから日本全体では60万人から100万人と推定されます。しかし一方、厚労省の患者調査では全国のてんかんの総患者数は20数万人とされており大きな開きがあります。
その理由の一つに、厚労省の患者調査が最も主要な病名(主病傷)を調査していることから、てんかんがあっても他の病気が主病傷となっている可能性が考えられます。例えば患者さんが脳卒中の後遺症で起こったてんかんを治療するために通院していても、主病傷は脳血管障害と登録されているかもしれません。
しかし「てんかんが主病名(主病傷)にならない」ということは、てんかんとして適切な治療が行われていないのではないか、という疑問にもつながります。
例えば患者さんがてんかん発作で病院に運ばれた場合、脳卒中の再発でなければ医師は通常「てんかんだから大丈夫」と自宅に帰しますが、実際には患者さんはてんかん発作のために仕事や自動車運転に支障をきたし「てんかんで困っている」のかもしれません。
またわが国では、「てんかんの外科手術症例数」が諸外国の2分の1以下に過ぎず、本来手術で治るはずのてんかんが治っていない可能性もあります。
日本の少ない「てんかん患者数」と「てんかん外科手術症例数」は、てんかんを持つ人にとって発作が止まる事がどれほど重要なことなのか、社会に十分な理解が行き届いていない事を示す数字なのかもしれません。
てんかんの地域診療連携システムの必要性
てんかんの診療は、地域のかかりつけ医による1次診療(プライマリケア)、てんかんの診断と専門治療を行う神経学専門医による2次診療、及び外科治療が可能なてんかんセンターによる3次診療に至るモデルが提唱されており、諸外国ではこのアルゴリズムに従ったてんかん診療が実践されています。
しかし我が国では、成人を対象としたてんかんの専門医の数は少なく、また神経内科、脳神経外科、精神科のいずれの診療科がてんかんを担当するのかも不明確なため、地域の一般診療医から専門医につながる一貫したてんかん診療モデルが形成されていないのが実情です。
てんかんに関わる種々の課題を解決するには、地域の医師とてんかん専門医が効果的に連携できる「わが国の実情に即したてんかん診療の仕組み」を早急に整備することが求められています。